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フィン・ユール アームチェア
SANKEN ARCHITECTS 設計部・花山です。
現在開催中の 「建築から生まれた椅子展」 より、私がご紹介する椅子は、建築家 フィン・ユール によるアームチェア。
私にとってこの椅子は、“美しい”を超えて、「椅子って、こんなにも奥深いんだ」と気づかせてくれた原点のような存在。
今回は、そんな特別な一脚に寄せる想いを、私自身の視点からお届けします。

Arm Chair
1952-53 | フィン・ユール Finn Juhl
彫刻のような造形美と温かな手仕事が共存する、フィン・ユールによるアームチェア。
背と座が木製フレームから浮かんで見える独特の構造や、優美なアームライン。
詩的でありながら、日常に寄り添う機能性も備えたこの椅子は、まさに芸術と暮らしをつなぐ存在です。

椅子という世界に魅せられた原点~ ただの家具ではない、「存在」としての椅子 ~
椅子という存在に強く惹かれるようになったのは、学生時代のことでした。
インテリアの専門学校で出会ったのが、織田コレクションとフィン・ユールの椅子。
当時はミッドセンチュリーの人気が最高潮で、「イームズの椅子」が雑誌などでも話題になっていた頃です。
そんな中、講義で目にしたフィン・ユールのアームチェアは、「これって本当に椅子?」と息をのむような衝撃でした。
背と座がフレームから浮かぶように見える構造、滑らかで詩的なライン――
椅子が“家具”を超えた瞬間に、心を掴まれたんです。

構造と詩情の共存~ 彫刻のようで、暮らしの中にある ~
このアームチェアの特長は、なんといってもその視覚的な軽やかさと構造の独創性。
まるで空中に浮いているような座と背。繊細に見えて、しっかりとした機能を備えている。
「彫刻のような椅子」というフィン・ユール自身の言葉が、そのまま体現されたような一脚です。
詩的でありながら、決してアートにとどまらず、日常の中で機能する道具としての完成度にも、強く惹かれました。

手に宿る温もりと余白~アームの曲線に、作り手の体温を感じて ~
中でも私がとくに惹かれているのが、アームのラインです。
肩から指先へとすっと伸びるような、やわらかく繊細なカーブ。
丁寧に削り出された木の質感からは、「手で作られた」ことが伝わってくるようで、量産家具にはない温かさがあります。
彫刻のような見た目と、やさしい手ざわり。
作品としての存在感と、暮らしへの寄り添いが同居している点に、深い魅力を感じます。

暮らしに溶け込む、詩的な存在~時間とともに、もっと好きになる ~
椅子を学びはじめた頃から、今に至るまで。
ずっと惹かれ続けているのは、こうした静かで、詩的で、暮らしになじむ椅子です。
主張しすぎず、でも目に入るたびに心がほどけるような存在。
時間とともに愛着が深まり、日々の暮らしを静かに支えてくれるような椅子に、私は魅力を感じます。
今回の 「建築から生まれた椅子展」 では、そうした椅子たちを一脚ずつ丁寧にご紹介しています。
写真だけでは伝わらない、この椅子の“存在感”を、ぜひ会場で体感してください。